ようこそアーティスト 文化芸術とくべつ授業
紅葉の季節、京都の小学校で、ピンホール写真の授業を行いました。小学生向けのデジタル・ピンホールのワークショップとしては初めてのことではないでしょうか。
【概要】
タイトル:ようこそアーティスト 文化芸術とくべつ授業
講師:鈴鹿 芳康(ピンホール写真芸術学会会長、京都造形芸術大学教授)、合津 文雄(PPAS会員、写真家)
日時:2008年11月26日(水)10:30〜12:15
場所:新洞小学校(京都市左京区東洞院仁王門上る新東洞院町52)
参加者:5年生、6年生(計27名)と先生方
講義項目:
第一時限 写真の原理
写真の基本原理を学ぶ
教室をカメラにして体験
第二時限 デジタル・ピンホールカメラ実習
ピンホールを作る
デジタルでピンホールカメラを体験
記念撮影
【準備】
授業を行った新洞小学校は京阪三条駅近くの歴史ある小学校です。前日に、機材を搬入し、先生方、京都芸術センター職員の方がたにもお手伝いいただき、教室の遮光作業と、カメラオブスキュラのテストを行いました。
あらかじめピンホール設置を想定していた校庭側の窓は、この週から始まった耐震補強工事の足場で視界が悪く、利用を断念しました。替わりに廊下側の透明ガラスの入ったドアーにピンホールとレンズのボードを貼り付け、廊下には照明スタンドを設置しました。先生にボードの前に立っていただくと、教室内のトレーシングペーパーのスクリーンには倒立像が鮮やかに映し出されます。既に日が暮れていますから遮光の状況は翌朝に確認することとしました。
【第一時限】
当日はカラッと晴れ渡った良い天気でした。遮光も問題なし。子供たちが元気よく教室に入ってきて、担任の先生からの講師紹介と校長先生のお言葉をいただいて、授業開始。
まず、講師から写真の原理についての説明。
-- 大きなカメラも、レンズを取り外すと、あとは中に何もない暗い箱だけになります。このことは、より小さいカメラや新しいカメラ、携帯電話のカメラでもまったく同じことです。人間の眼も原理は同じです。レンズの反対側には感光剤を使ったフィルムがあって像を記録します。
-- そのとき光の量を調節できないと適切な記録ができません。その調節の機構が「絞り」とシャッターです。眼の瞳のような光の道を細く絞ってしまう機構が「絞り」で、レンズを通り過ぎる光の量を調節します。レンズをはずせるカメラでは、その機構を観察できます。一方、時間を区切って、光の量を調節しようというのがシャッターです。100分の1秒とか50分の1秒とか速さが変えられますが、音を聞いただけでは人間には区別しにくいですね。
-- 人間の五感で感じ取れるものには限界がある。シャッターの速さが人間には良く分からないことを応用して、映画やテレビは1秒間に何枚もの絵を見せて、あたかも動いているように見せている。本当のものが見えている、本当のことを知っていると思っていても、実は本当のところは少し違うということを知って欲しいと思います。本当はどうなっているのか、そういうことを確かめていくことも大事なことなのです。何事にも探究心を持ち続けて欲しいものです。
-- カメラはどこにもあります。でも何で写るのかはよく知らないと思います。カメラという物は見て知っているけど、その中はどうなっているのかな。カメラの中に入って、体験してもらいたいとおもいます。カメラで撮られた綺麗な写真を見るだけでなく、それが出来る原理を体験してもらいたいと思います。
-- では、今日は、教室を真っ暗にしてカメラを体験してみましょう。これから照明を切ると、みんなは暗い箱の中にいます。教室が大きなカメラになります。教室の前の方に集ってきてください。押さない、押さない。
照明を切ると、ワーッと歓声があがります。「静かに!」。暗黒に慣れるまで、講師はペンライトを灯して、日本や世界を旅して、絵や写真のことをやってきたことのお話をします。先生に廊下に立っていただきます。だいぶ目が慣れてきたところでガラス窓に取り付けた直径5mmのピンホールを開けると、教室の中につるしたスクリーンに何か映っているのが見えてきます。ワー、先生が映っている。このサイズではちょっと暗くてわかりにくいですが、直径12mmのピンホールを開けると明るくしっかり見えます。スクリーンを下げると、もっと大きく映ります。ちょっとぼけているけど教室の外の廊下が上下逆転して映っています。ワー、へー。みんな関心しきりです。続いて直径95mmのレンズに替えると、こんどは明るくはっきりした像が映りました。先生が廊下を行き来すると、逆さまに歩いている様子が見えます。オ“−。廊下で先生がするパフォーマンスに次々歓声があがります。
暗闇のなかで、写真の原理についての講義の続きが展開されます。レンズには焦点距離というものがあって、スクリーンを前後するとピントがあったりぼけたりします。これはピンホールにはない現象です。カメラを体験しながらの講義にみんな納得できたかな。
これで、第一時限は終了。
【第二時限】
持ってきたアルミ缶から各自のピンホールを作って、それをデジタル・カメラにつけて撮影する手順の説明を聞きます。続いて、道具が配布されます。カッターナイフを使って、アルミ缶を切断し、ハサミでアルミ板に切り出し、大きさを整え、針を立てて孔を開け、サンド・ペーパーでバリを取る。ワイワイと作業が続きます。できた人から、順番にデジタル・カメラに簡易アダプターで装着してもらって、撮影です。自分がつくったピンホールで、教室の仮設スタジオで5秒から13秒の撮影です。その場で、大型テレビに結果が映し出されます。ウーン、キャー、教室は歓声に包まれます。
理論計算によれば、直径0.3mmが最適なのですが、孔のあけ方で結果は大きく変わります。肉眼では直径はわかりませんが、大きすぎても、ゆがんでも、面白い写り方をするし、小さすぎると、露光時間が長くなって、人はほとんど写らなかったりします。どういうわけか、時に特別な色がつくことがあります。しっかり丁寧に作る人、手早くできる人、講師と一緒にポーズを決めて写す人。みんな、思い思いの工夫を重ねて、つぎつぎ撮影します。楽しい時間はあっという間に過ぎました。撮影されたものはまとめてプリンターでプリントしました。
実習が終わったら、校庭に出て、記念撮影です。インスタントフィルムで、その場で結果が見られます。デジタルにしろ、インスタントフィルムにしろ、その場で結果が分かることが、教育の現場では分かりやすいようです。
今回の、授業は準備や運営に不十分な点も多々ありましたが、結果としては当初の目的を達することができたと思います。今後、この経験も踏まえて、様々な企画を実施したいと考えています。
以上
(文:合津 文雄)